子どもも大人も笑顔になる社会のために「読みつなぐ」~「おはなしころりん」理事長・江刺由紀子さんの想い~
掲載日 2021年6月10日
執筆者 Michi
- 営業時間: 月~金 9時~17時 土10時~15時
- 場所:岩手県大船渡市盛町字館下4-3-7
- 料金: ―
- 定休日: 5月連休・お盆・年末年始
盛駅から徒歩3分の「地域交流図書室おはなしサロン」は、0才から祖父母世代までが集い、本を借りたり茶っこしたりする場所です。このサロンを運営する「おはなしころりん」さんの活動について江刺由紀子さんにお話を伺いました。
活動内容
・読み聞かせおはなし会
・移動こども図書館
・やってみっぺし読み聞かせ
・おはなしサロンの運営
・地元民話の紙芝居制作
・絵本作家による読書イベント
・大船渡防災観光交流センターおおふなぽーと(2Fの運営)
・FMねまらいんラジオ番組「おはなしのおくりもの」「875chanねる」
・東南アジアに絵本をおくるボランティア活動
・その他いろいろ
読書推進と地域コミュニティの再生に取り組む
――2003年に「おはなしころりん」という任意団体を立ち上げた経緯を教えていただけますか?
全国で国語力の低下が叫ばれ、読書推進の声が高まった頃でした。子どもたちに本を好きになってもらいたいと、自分に何か出来ないかという気持ちで大船渡市立図書館の「読書ボランティア養成講座」を受講しました。その時に出会った仲間と「おはなしころりん」を始めたんです。
「読み聞かせおはなし会」では子どもたちはもちろん、一緒に来ていた大人たちも絵本の魅力に引きこまれていって……。他にも「移動図書館」や「ラジオ朗読」「気仙弁の紙芝居制作」なども行っています。読み聞かせは、月に平均30回はしていますよ。
――ええっ!? ほぼ毎日ですね。回数もそうですが、活動の内容も充実していますね。
今日も「FMねまらいん」の朝の番組に出て、その後に小学校での読み聞かせをしてきました。要望があればどこへでも駆けつけます。当初は読み聞かせだけでしたが、どんどん活動が増えていきました。私たちが企画するというより、地域の皆さんがやって欲しいという声に耳を傾けて、それを実現してきているという感じです。
――大規模な活動になり法人化しようとした矢先の東日本大震災ということでしたが、2011年から新たに「地域コミュニティの再生」への取り組みもされているようですね。
震災後の子どもたちは不安でいっぱいでした。早急に心の拠り所が必要だと感じたんです。本がその役割を果たすことができると考え、本を届ける移動こども図書館を始めました。本を積んだ車で仮設住宅をまわり、子どもたちの見守りをするようになりました。すると、同じように高齢者も生きづらさを感じていることに気が付きました。地域の交流を復活させるためにも「活動を一緒にやりませんか。」と呼び掛けたところ、子どもたちのために参加してくれるようになって。
現在スタッフが11人、会員45人、賛助会員95人いらっしゃいますが、会員の中には88歳のおばあちゃんが2人いて、気仙弁は本物ですから、紙芝居を制作する仕事をお願いしています。今は「気仙語カルタ」の商品化に向けて取り組んでいるところです。そうやって高齢者の居場所と活躍の場、生きがいになればという想いです。
2016年まで法人化しなかったのは、共に働くスタッフに団体運営に関する知識や技術を学ぶ時間が必要だったからです。経理の点を解決するために、簿記教室を開いてスタッフと研修しました。普通のおばちゃんでもできるぞって(笑)。土台をしっかりしないと活動を続けていけませんからね。
「おはなしサロン」で大切にしていること
――「おはなしサロン」は、どのような方が利用されていますか?
サロンの開室(月・火・金・土曜日)と月1で工作教室などのイベントをしているので、赤ちゃん連れの親子や小・中学生、地域の方がいらっしゃいます。お茶っこが大好きな常連のおひとりからは、この場所があって助かったという言葉を頂き、居場所になっていることを実感しました。
――年齢を問わずに利用できるということで、大切にしていることは何ですか?
誰でもどこでも本を身近に感じることができるようにと、ハードルを下げるように工夫しています。本の貸し出しは無期限ですし、返却も移動図書館や子育て支援施設など各所で出来るようにしました。わざわざ行くのではなく、何かのついでだと負担にならないかなと。
コロナ渦でもそうです。おはなしサロンの中に入ることができないなら、外で本を借りられるようにと考えました。軒下に300冊もの本を並べ、中古本の販売をしたところ反響が大きくて……予想外でした。本を寄贈してくれる方もたくさんいて、本で人々の交流が生まれたんです。
また直接会えないからと、スタッフと利用者さんで手紙のやりとりを始めました。返事がしやすいように、切手を貼り住所も書いた封筒を一緒に入れて郵送します。手書きの文字で会話するってなかなかいいんですよ。この前なんて、やりとりしている5歳のお子さんがスタッフにわざわざ会いにきてくれたりして。お子様が興味あるなら、この機会に文通してみませんか?
少しでも社会が明るくなるように「読みつなぐ」活動を続けていきたい
――最後に子育てママさんへ向けてメッセージをいただけますか?
子どもは大人の鏡なので、親が苦しいと子どもは不安定になるんです。そういうときに本はその人を支える力になります。本と出会って救われる心もあると思うのです。
また、お母さんのぬくもりのある声で絵本を読むと、赤ちゃんも安心して笑顔になり互いに愛情が深まるんですね。だから、赤ちゃんとどう関わっていいか分からないとか、子育ての相談でもいいのでいつでも遊びに来て欲しい。その手助けを私たちがしていけたらなと思います。
私たちは常にお子さんのための活動と思って続けています。大人やおじいちゃん、おばあちゃんなど、地域の方々が子どもの健やかな成長を願って協力し合う未来は明るいと思うのです。だからこそ、「読みつなぐ」活動を20年後も50年後も続けていくことが目標です。
江刺さんの言葉や表情からは、何事にも真剣に取り組む団体の長としての意気込みを感じずにはいられませんでした。
ちなみに、活動してきてうれしかったことを聞いてみると、「活動当初の頃に小学生だった子が、ママとなって我が子を連れてきたことでしょうか。」と満面の笑顔で答えてくれました。
今の世代から、またその次の世代へと「読みつなぐ」。人々が笑顔で過ごせる社会を目指し、これからも「おはなしころりん」さんの活動は続いていきます。