娘と山を歩く~種山ヶ原に行った思い出~
掲載日 2021年2月23日
執筆者 くまちゃん
新緑、小川のせせらぎ、心地よい疲労感、そして達成感にあふれた娘の笑顔がそこにはあった。
岩手県にある種山ケ原。宮沢賢治の「風の又三郎」のモチーフになったと言われる、物見山を山頂とする高原地帯だ。6月初旬、職場の同僚ら6人でハイキングに訪れた。
実は根っからのインドア派で体力に自信がない私。「地元の保育園児も、ハイキングコースを歩いているらしいよ」という甘い言葉にその気になり、4歳の娘と一緒にチャレンジしようと思ったのだ。
未知への挑戦への不安で曇った顔をした娘の手を繋ぎ、有林ランド種山を出発した。
スタートしてすぐだった。その森の生命力に息をのんだ。太陽の光を浴びた新緑の木々、草や苔。ここで何十年と育まれた命。今までこの景色を知らなかった自分は、人生を損していたように思える。それほどまでに圧倒された。
普段はじっくり見ない植物や虫と触れ合いながら歩く。オタマジャクシが森の中にもいるのは、娘にとっては発見だったようだ。同行した70歳オーバーの登山好きのおばあちゃんが、慣れた足取りで伸びた草を避けながら先頭を進んでいく。私たちはその後ろを、ぞろぞろと追いかける。
苔が生えた飛び石を飛んで小川を渡り、倒れた太い丸太を跨いだ。まるで冒険しているみたいだね、と話したら娘が冒険隊長に任命された。とても誇らしそうだった。
このお花かわいいいね、お土産にしよう!と紫の花を手にする娘の顔に疲れの色は見えない。むしろ、目の輝きは増している。
途中休憩でみんなで食べた竹輪が、程よい塩気で疲れた体に染みた。今までで一番美味しい竹輪だった。登山では定番のおやつだそうだ。
森の緑の迷路や小川の小径を進み、見事なまでに真っ直ぐなカラマツ林を抜けると、パッと視界が開けた。
広い草原が見え、山頂はもうすぐ!娘の足取りも軽くなり、坂道をダッシュしている。鮮やかなツツジを横目にゼーハー言いながら進んでいるのは、もはや運動不足の私だけだ。娘に腕を引っ張られ、山頂に到着した。
物見山の標高はおよそ800メートル。子どもの足で約2時間。
登山好きのおばあちゃんが、遠くには岩手山や早池峰山が見えると言っていた。山に疎い私には分からなかったが、それにしても素晴らしい眺め。心地よい風が悲鳴を上げそうだった体を吹き抜ける。ああ、頑張って登ってよかった。賢治もこの景色を見ながら物語を紡いだのだろうか。
山頂付近で腹ごしらえをし、山を下りる。岩によじ登って笑っている娘がいた。途中でバテるかもしれないと覚悟していたのだが、私の背中におぶられることはなかった。普段は甘ったれな4歳の小さな体と心は、私の想像以上に逞しく成長していた。
行きとは違う道を通り、有林ランド種山へ帰ってきた。
娘は最寄りの産直でソフトクリームを食べ、サイコーとはしゃぎながら笑顔を見せた。