お母さんの笑顔は、子供の笑顔 岩手県大船渡市 障害児ママ支援団体「とまり木」代表 山崎友里恵さん インタビュー
掲載日 2022年8月30日
執筆者 kana
海と山に囲まれる岩手県大船渡市。積もる話を交わす母たちの姿を、優しく見守る女性がいます。障害児ママ支援団体「とまり木」代表 山崎友里恵さんです。
山崎さん自身も9歳のお兄ちゃんと、8歳の双子の弟のお母さん。弟たちは2人とも重度の知的障害があります。
「とまり木」では障害児ママが気軽にお喋りできる「ママカフェ」の他、小児科の先生を招いての質問大会、小物づくりワークショップなどを開催。コロナ渦の現在は子供たちが描いた絵をTシャツや雑貨にし販売する活動をしています。
山崎さんの印象は「何事も楽しむポジティブママ」。
ところがお話を伺って、今に至るまでに様々なストーリーがあると知りました。
アットホームな雰囲気の「ママカフェ」開催の様子。(山崎さんは右から2番目)
お母さんが元気だと、家の中の雰囲気が良くなる
――私は1歳半の息子がいるんですが、子供のためと思ってあれこれ考えたことが、かえって自分を追い詰めていることがあります。自分がカリカリしていたために、子供もカリカリ……あとから気が付いて後悔することも。
私もそれを身をもって経験したので、お母さんが楽しい気持ちになれる場を作りたいと思いました。例えば月一回でもリフレッシュできる場があると、家庭円満に繋がるかなと。お母さんが元気だと、家の中の雰囲気が良くなるから。
特に障害のあるお子さんの家庭は悩みが多く、似た境遇のお母さん同士でもなかなか話せないことって多いんです。子供の進学は普通学校なのか、支援学級なのか、支援学校なのか、障害について家族の理解の違いなど、たくさんの悩みを話します。旦那さんのグチもね(笑)。
ワークショップで作ったケーキマグネット。綺麗な材料を前に、手を動かしながら話すと緊張がほぐれ、話が弾むのだそうです。
セルフジェルネイルコーナーを用意することも。お母さんたちのほころぶ顔が目に浮かびます。
障害児のお母さんとして葛藤した過去
――私はたった一人子供を育てるだけでも精一杯です。山崎さんのご苦労は想像できません。
双子に障害があると分かった時、悩んだのは「小さいうちはいいけれど、大人になってから気持ち悪いと言われるんじゃないか」ということでした。だから、「とりあえず清潔にしておかなきゃ、見た目だけでも立派にしなきゃ」と気を張りつめていました。毛玉の服は着せないし、ご飯粒一つさえ付けないようにしていました。
私自身も身だしなみは気を付けました。息子たちに障害がある分、人に謝る機会が多いので、清潔感あるお母さんの方が許してもらえるんじゃないかと思ったり。「女性は自分よりボーイッシュな人の方が接しやすい」とネットで見れば、ショートカットにして、肌もボロボロにならないようサプリを飲んで、白髪一本でも出たら染めて。気さくな感じで、いつも笑顔で。家から一歩外に出るとものすごく神経を尖らせていました。
障害をもつ双子の弟たち。パパに抱かれ嬉しそう。
“そのまま“を受け入れるということ
――今の山崎さんは肩の力が抜けているような、自然体で子育てを楽しんでいる感じがします。何かキッカケがあったんでしょうか?
ありのままの子供たちを受け入れられるようになったことです。例え服を汚してしまっても、着替えを持っていなくても、この子たちは遊びたくてやったものなんだ、息子たちは息子たちなんだ。そう認めることが出来た時、「ああ、自分も頑張らなくていいんだ」と。
そしたらすごく楽しくなってきて。私は子育てしながら昼間から大好きなお酒を飲むこともありますが、「それでグダグダになっても、お母さんの気持ちが楽しくなって、怒らずに済むんだったらいいんじゃない?」と考えられるようになりました。
子供たちは家中落書きし放題です。それで私は1日に何度も掃除をしなきゃいけないんですが、自制のきかない息子たちに「好きなように描いていいよ」と言うと、目をキラキラさせてダイナミックに描くんです。でもウチ、実は賃貸なんです(笑)。家に関しては、出ていく時に大家さんにお金を払えばいいかと考えるようになったら、見ていて楽しくなりました。
思い思いに描く双子の息子さんたち。このTシャツを学校に来ていくこともあるんだとか。
自然は、ありのままを許してくれる味方
――山崎さんのInstagramでは、お子さんたちが動物と触れ合ったり、一緒に種から作物を育てたりする姿を拝見しました。夢中になっている息子さんたちの様子を見ると、自然と触れ合うっていいなぁと改めて感じます。
実は私、中学校の頃に不登校だった時期があるんです。当時牧場をやっていた実家の祖父母は、学校に行かない私を否定せず、「家にいるんだったら牧場手伝えば?」と言ってくれたんですね。私は毎日歩いて牧場に行って、牛の出産に立ち会ったり、生まれた赤ちゃんにお乳をあげたりしていました。
祖父母の存在と自然との触れ合いがあったから、その後に大変なことがあっても、子供に障害があると知っても、心がどん底まで落ちなかったと思っているんです。
子供たちと自然の中に行くときは街中と違って「あれダメこれダメ」と言いません。子供たちは好きなように遊べるし、例え自分で何かに触れて手にトゲが刺さってもそれが勉強になります。また、野菜嫌いな息子たちですが、自分で種から野菜を育てた時は食べることができました。
障害により話すことが出来ないので、どう感じているかは聞けません。ですが、そういった触れ合いを重ねて子供たちが大きくなった時、自然が大きな味方になってほしいですね。
兄弟3人で畑のお世話。「長男は他の場所で障害がある人と接しても否定もせず、特別扱いもしないですね。“弟たちも同じだし”といった感じで。“人ってできないところがあって当たり前”と分かっていて、馬鹿にしないんです。」
障害があってもなくても、みんなが楽しく過ごす場所
とまり木の「森の学校」
――将来は実家の牧場跡地を開拓し「森の学校」を作りたいと伺いました。名前を聞いただけでもワクワクしますが、どんなところにしたいですか?
牧場にはログハウスがあるんですけど、それは祖父が一人で建てたものなんですよ。そういった感じで、地域の方にも手伝って頂いて、遊具も手作り、近くの湧き水を汲んで、自分で火を起こして、飯ごうでご飯炊いて、釣った魚を焼いて食べて。お母さんがくつろぐカフェもあって。
障害があってもなくても、お互いを身近に感じあえる場。
みんなで作り上げて、みんなで楽しむ場。
それが私が作りたい「森の学校」です。
子供たちが大きくなっても沢山の方に見守られて、安心して生きていけるように。
おわりに
――山崎さんのお話を聞いて、普段の育児を振り返ると……我が子の「楽しい」を見逃してはいないか、私自身は楽しんでいたか、改めて考えさせられました。大切な気付きを頂いた気がします。今後の活動も応援しています。ありがとうございました。
コロナ次第ではありますが、今後の「とまり木」の活動に是非ご期待ください。と山崎さん。
Instagramでは他にも、お子さんとの日常の様子も発信しています。
Instagram:porcogarden2525
取材・文 kana